- 全合成分野で、〇〇合成という用語が複数ある
- 合成のどこの部分にフォーカスしたかによって、用語が変わる
有機化学の研究分野の一つに全合成がありますが、その中に〇〇合成という単語がいくつかあるのを知っているでしょうか。
全合成分野にいない人や研究室に配属されたばかりだとわからない人も多いと思うので、ここで解説します。
有機化学の発達により、時間とお金さえかければ、ほとんどの分子構造は合成できるようになってきています。そのため、全合成関連への風当たりは厳しくなってきていて、論文自体が減ってきていますが、まだまだ有機化学の大きな1分野ではあります。今回紹介する用語を完璧に覚えなくてもいいので、このページに書いてあったことだけ覚えていってください。
Contents
全合成 Total synthesis
はじめに「全合成」から解説しておきます。
全合成は、構造解析されている天然物を市販の原料など、容易に入手可能な物質から有機合成によって作ることです。
市販の原料と書いてありますが、国によって市販されている化合物も変わりますし、最近は複雑な原料も市販されるようになってきました。「そんなに複雑な化合物から全合成を始めるの!?」、「お金のある研究室なのは知っているけど原料が高価すぎない?」と思うこともたまにありますが、出発物質に厳密な定義はありません。
形式全合成 Formal total synthesis
形式全合成は、すでに全合成が達成されている天然物において、途中の化合物までを別の合成ルートで合成することです。
下の図で、AからFまでの全合成が報告されているとすると、形式全合成とは前の論文とは別の方法で合成したA'→B'→C'→Dのことを指します。
形式全合成が行われるのは、工程数減少などによる収率の改善、爆発・高温・高圧条件などの危険な反応の回避、より入手容易・安価な出発原料からの合成、反応開発の論文における応用(新規反応の論文のApplicationとして最後にちょっと載っているもの)として取り上げられます。
と書きましたが、全合成への風当たりが厳しくなっている昨今、形式全合成は反応開発の論文における応用で見るくらいになってきています。
部分合成 Partial synthesis
部分合成は、天然物の一部分だけを全合成することです。
天然物によってはいくつかのセグメントに分かれているものもあり、そういった場合、セグメントごとに合成して、最後にドッキングする手法が効率的です(教科書的には収束的合成と言います)。
下の図で、G, H, IをドッキングしてJを作るとき、GだけをKから合成した段階が部分合成です。
博士課程や異動、学会などで論文提出や発表の期限が決まっているとき、どうしても全合成ができないときに部分合成として発表されることがあります。
また、論文数を稼ぐために、部分合成として1報、全合成として1報で、一つの天然物で合計2報の論文を出すということも何年か前までは行われていました。
噂で聞いただけですが、有名な先生が「自分たちのグループで、この天然物の全合成研究をしている」ことを示して、他の研究グループが参入してこないようにしていたこともあるそうな。。。真偽は不明ですが。
半合成 Semi synthesis
半合成は、入手容易な天然物から合成を開始して、全合成を達成することです。
この説明だけだと少しわかりにくいですね。
イメージとしては全合成が達成されている化合物のうち、形式全合成は前半の合成の改良で、半合成は後半の合成の改良と考えてください。
誤解を生むかもしれませんが、敢えて書くと
全合成=形式全合成+半合成
のような感じです。
どうして後半の合成だけをするかというと、全合成では一般的に後半ほど、複数の官能基の共存、複雑な分子骨格、立体的制限があることから作り切ることが難しいからです。
ただし、実際のところ、半合成はほとんど見ないです。
私が全合成の研究室にいなかったということもあるかもしれませんが、10年以上、研究に携わっていて、半合成を見たのは片手で数えられるくらいです。
まとめ
以上、全合成関連の用語を解説しました。
〇〇合成という言葉が多く、初見ではわからないかもしれません。しかし、そこまで難しい言葉ではないので、一度理解すれば、すぐに頭に入ると思います。
全合成の論文数は減ってきているので、そもそも目にする機会は少ないかもしれませんが、それでも学会や勉強会で見ることはあるので、知っておきましょう。