アルコール(ヒドロキシル基)の保護

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ヒドロキシル基を保護するときって、どんな保護基を使えばいいですか?

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化合物の他の官能基によるから、これって言うのは言えないね。どんな構造なの?

「アルコール」

と言っても、ここではお酒のことではありませんよ。アイキャッチ画像はお酒を載せましたが、記事の内容は真面目なものです。有機化学で出てくるヒドロキシル基(-OH)のことです。

有機化学でもっとも有名な官能基の一つであり、反応性も高いため、合成や反応でよく足がかりになる官能基です。

だからこそ反応の種類が多すぎて、初学者にとっては難しく感じる部分でもあります。ここでは、ヒドロキシル基の保護・脱保護と代表的な反応であるアルデヒドへの酸化反応をまとめました。

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アルコールの保護は、理解しているかどうかがテストの点数に反映されやすいので、しっかり勉強しておきましょう

Contents

ヒドロキシル基の保護・脱保護

6種類の保護基を紹介します。赤のマーカーは保護基の導入剤青のマーカーは脱保護条件ですので、手早く探したい人はマーカー部分を見てください。最後に表でもまとめてあります。

①エステル基

アセチル基が使われることが多く、アルコールエステルへと変換します。アセチル保護されたアルコール

酸化反応に強くなります。2つ以上のヒドロキシル基が存在するときに1つだけ保護して、もう片方を酸化するのはよくやることです。

保護基の導入剤:塩化アセチル、無水酢酸、塩化ベンゾイル・・・

脱保護:塩基+アルコール(or水)です。エステルの交換反応ですね。

②ベンジル基

アルコールをエーテルに変換します。ベンジルエーテル保護されたアルコール

酸、塩基に強くなり、脱水が起こりません。また、酸化も大丈夫です。

保護基の導入剤:ベンジルブロミド(強い催涙性があるので、使うときはドラスト内で。量りとったシリンジなどを洗うときも注意。NaOH水溶液で洗うと、ベンジルブロミドがつぶれます)

脱保護:還元条件(H2,Pd/C or Birch還元)です。

③シリル基

シリル系の保護基もよく使われます。シリルエーテルに変換することで、酸化還元条件に強くなります。シリル保護されたアルコール

TMS(トリメチルシリル)、TES(トリエチルシリル)、TIPS(トリイソプロピルシリル)、TBStert-ブチルジメチルシリル)、TBDPStert-ブチルジフェニルシリル)がよく使われます。一般的に立体的に大きいもののほうが外れにくいです。(逆に脱保護するときにきつい条件が必要になります)

保護基の導入剤TMSCl, TESCl, TIPSCl, TBSCl, TBDPSCl

脱保護TBAF(テトラブチルアンモニウムフロリド)が代表的です。フッ素-ケイ素の結合の強さを利用して脱保護します。他にもTMSであればMeOH+K2CO3もよく使われる脱保護反応の条件です。

④アセタール

アルコールをアセタールとして、保護する方法もあります。MOM保護されたアルコール

MOM(上)やTHP(テトラヒドロピラン)(下)が有名です。

酸化還元、塩基条件に強いですが、酸に弱いです。THP保護されたアルコール

保護基の導入剤MOMClDHP(ジヒドロピラン)

脱保護:酸(触媒量)+水(+水溶性有機溶媒)でキレイに脱保護できます。

個人的には、保護した後の反応で酸を一切使わないのであれば、ファーストチョイスです。理由は、①保護が簡単、②導入剤が安価、③酸化還元、塩基にかなり強い、④脱保護で副反応がなく、キレイに進行しやすいためです。

THP保護を使う際は、キラル化合物には使わないように注意してください。構造を見てもらうとわかりますが、THP内に不斉点があります。つまり、キラル化合物に導入するとジアステレオマー混合物となって、NMRが複雑化し、TLCで2スポットに分離する可能性があります。

⑤トリチル(トリフェニルメチル)基

トリフェニルメチルエーテルで保護します。立体的に嵩高いため、2つ以上のヒドロキシル基があるときに立体障害による選択性を出しやすいです。トリチル保護されたアルコール

塩基、酸化条件に強いです。

保護基の導入剤TrtCl

脱保護:酸でPh3C+として脱離させる or H2,Pd/Cです。

PMB(パラメトキシベンジル)基

ベンジル基と似ていますが、酸化に弱い点が異なります。PMB保護されたアルコール

保護基の導入剤PMBCl

脱保護:酸化または還元条件
酸化→CAN
還元→Pd/C

まとめ

アルコールの保護基をまとめてみました。これ以外にもありますが、代表的なものはこの6つで十分でしょう。特に①~④はよく使われる保護基なので、覚えておきましょう。耐性や脱保護条件は、それぞれの官能基の性質を理解していればわかるので、この機会に勉強してみてください。

最後に保護・脱保護について表にまとめました。こうして比較すると覚えやすいかと思います。

保護基耐性のある条件官能基脱保護
アセチル(ベンゾイル)酸化、水素添加エステル塩基性条件
ベンジル酸、塩基、酸化エーテル還元
シリル酸化、還元シリルエーテルTBAF
MOM、THP塩基、酸化、還元アセタール酸性条件
トリチル塩基、酸化エーテル酸、水素添加
p-メトキシベンジル酸、塩基、エーテル酸化、還元
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