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アルコールからアルデヒドへの酸化

第1級アルコール(ヒドロキシル基)を酸化してアルデヒドを合成するのは、有機合成でよく使う反応です。研究室でも使いますし、テストでもよく出題される問題です。

人名反応も多く、しかも有名なものばかりです。それぞれ反応条件や基質に特徴・制限があるので、ここでまとめて紹介します。

アルコールの酸化をアルデヒドで止める

アルコールは1段階酸化されるとアルデヒドになりますが、通常の酸化反応ではアルデヒドで止まらず、カルボン酸まで酸化されてしまいます。お酒を飲んだときにエタノールがアセトアルデヒドを経由して酢酸まで酸化されるのと同じです。

アルコールの酸化でアルデヒドを経由しカルボン酸になる反応

しかし、有機合成ではアルデヒドを作りたいことも往々にしてあるわけなので、アルデヒドで酸化を止める工夫が必要となります。そうした工夫が施されたのが、今回紹介する反応です。

工夫とは、アルコールとアルデヒドとの求核性の差を利用したものです。すなわち、アルコールは求核攻撃を起こすけど、アルデヒドは起こさないような酸化剤を開発・発見したわけです。

それでは、酸化反応をそれぞれ見ていきましょう。

アルデヒドへの酸化反応

Swern酸化

代表的な酸化反応で、反応機構は大学院入試で頻出の問題です。毎年必ず、全国で1校以上は出していそう(あくまで予想です)。

酸化剤はDMSOで、塩化オキサリル、トリエチルアミンと一緒に使います。

Swern酸化の推定メカニズム

DMSOと塩化オキサリルを混ぜると、活性種のクロロジメチルスルホニウムイオンが出て、これがアルコール、トリエチルアミンと反応してアルデヒドができるという反応機構です。

<利点>

  • 反応がキレイに進む
  • 官能基許容性が広い
  • 試薬がすべて安価
  • 反応例が多いので、似た基質を探しやすい

<注意点>

  • クロロジメチルスルホニウムイオンが水または-60 ˚C以上で分解するので、ドライアップした器具で-78 ˚Cで反応を行う
  • 悪臭!!!!!!副生成物のジメチルスルフィドが臭い。Swern酸化後の溶液をエバポするとダイアフラムの排気が臭くなる
  • 副反応でPummerer転位が起こってメチルチオメチルエーテルができることがある

Swern酸化でのPummerer転位

PCC酸化

クロム酸を使って酸化する反応で、PCC(Pyridinium Chlorochromate)は酸性条件、PDC(Pyridinium Dichromateは中性条件での反応になります。それぞれの構造は下のとおりです。

PCCの構造
PDCの構造

酸化はPCCまたはPDCから生成する三酸化クロムが、酸化剤となって進みます。

<利点>

  • 1種類の試薬を加えるだけなので、仕込みは簡単

<注意点>

  • クロムが重金属のため、廃棄は各大学・事業所の規定に従う
  • 試薬が劇物のため、厳重な管理が必要
  • たまに反応がキレイに進行しないことがある(基質の問題であることが多いので、他の酸化剤を使ったほうが良い)

DMP・IBX酸化

テスト的にはSwern酸化の次くらいに頻出の酸化反応ですが、論文ではそこまで見ない印象です。試薬が高価だからですかね?

DMPでの酸化

IBXでの酸化

<利点>

  • 1種類の試薬を加えるだけなので、仕込みは簡単
  • 廃棄に気を使わなくて大丈夫
  • 反応はキレイに進行する

<注意点>

  • 試薬が非常に高い(TCIで1gで¥6,100)
  • IBXでは溶媒はDMSOしか使えない

TPAP酸化(Ley-Griffith酸化)

論文で見ることも稀な反応ではありますが、名前自体はそこそこ有名です。酸化触媒のTetrapropylammonium perruthenate(n-Pr4N+RuO4-)の頭文字をとって、TPAP(ティーパップ)酸化と読みます。メカニズムははっきりわかってはいませんが、推定のメカニズムを載せておきます。

TPAP酸化の推定メカニズム

私自身、TPAP酸化をしたことがないですし、研究室のメンバーがしたという報告も聞いたことがないので、正直、あまり特徴がわかりません。10年以上、有機化学に関わってきても、まだまだ経験がない反応もありますね。

<利点>

  • 温和な条件のため、官能基許容性が高い
  • 金属が触媒量ですむ
  • 酸化剤がNMO(N-メチルモルホリン)でとても安い

<注意点>

  • 加速度的に反応が進むので、大スケール時は注意

TEMPO・AZADO

ラジカル捕捉剤としても利用されているTEMPOを利用した酸化反応です。他の反応と違うところは安価な無機塩を再酸化剤に使っているところです。そのため、除去が非常に簡単です。また、他の酸化反応に比べて、基質の立体の影響を受けやすい印象があります。

TEMPOでの酸化反応

AZADOの構造東北大学の岩渕先生らによってTEMPOに類似したAZADOが開発され、AZADOを使った酸化反応が精力的に研究されています。

<利点>

  • 試薬がすべて安価
  • 基質の立体的要因で反応を制御できる

<注意点>

  • 立体的に混んでいる位置のヒドロキシル基の酸化は厳しい
  • AZADOはいいお値段(岩渕研では研究室配属後、最初の練習実験で作っているらしいので、合成は簡単なのだと思います)

MnO2

二酸化マンガンを使った反応で、反応基質はアリルアルコール、ベンジルアルコールのように共役アルデヒドが生成するものに限られます。しかし、その制限をものともしないほど利点も多いです。

MnO2での酸化反応

基質の制限さえクリアすれば、私はファーストチョイスで試します。

ナスフラスコに原料+MnO2(10当量以上)+CH2Cl2を入れて、激しめに撹拌しておくだけで反応が進みます(加熱が必要なこともあります)。

<利点>

  • 使う試薬が1種類で、空気下で反応を仕込める
  • 後処理はろ過するだけ
  • 副反応が起きづらく、キレイに進行する

<注意点>

  • 基質に制限がある(共役アルデヒドが生成する基質)
  • 不均一系なので、比較的撹拌を激しくする

まとめ

アルコールからアルデヒドを合成する酸化反応をまとめてみました。どれも一長一短ありますが、私は基質さえOKならMnO2をはじめに試します。反応が進行しなかった、もしくは基質が適応外だったときに、反応スケールや他の官能基によって酸化反応を選びます。

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