置換基の位置関係を示す用語、いくつ知っている?
Abstract
    • 官能基の位置関係を示す英単語についてわかるようになります

有機化学の勉強を始めた人にとっては、論文を読んでいて、ぶち当たる壁の一つが単語の意味がわからないことだと思います。

有機化学は構造式を描くことで化合物を表すことができるので、構造式が書いてあれば、ひと目見るだけでわかることもあります。しかし、文章で示されるだけということも少なくありません。

とりわけ、置換基の位置を示す単語は、教科書でも説明されることは少なく、教員から学生へ、先輩から後輩へと直接的に教えられるだけということが多いです。(もっとも最近はネットで調べることが多いですが・・・)

そこで、今回は置換基の位置を示す単語、接頭辞を紹介します。

(ここでは、オルト、メタ、パラやE,Zなど、よく出てくる説明については省略します)

Contents

[m,n]-シグマトロピー転位

シグマトロピー転位

Cope転位やClaisen転位などの反応で、[3,3]-シグマトロピーとして、よく出てくる接頭辞です。どの教科書にも説明は書いてありますが、ナンバリングについてはわかっていない人が多そうなので、ここで取り上げることにしました。

シグマトロピー転位とは?

数字の説明の前に、シグマトロピー転位について、先に説明します。

シグマトロピー転位(シグマトロピーてんい、sigmatropic rearrangement)はπ電子系に隣接する単結合が切断されると同時に、π電子系上で新しい単結合が生成する形式の転位反応

噛み砕いて言うと、一つの分子の中で、ある部分では結合が切れて、別のある部分では新しい結合が形成するということです。

結合の切断と形成が同時に起こる反応であるということを理解しておいてください。

[3,3]は結合の形成位置と切断位置の関係を示す

それでは、本題の[3,3]の説明に戻りますね。

Cope転位は[3,3]-シグマトロピー転位になりますが、[3,3]は結合が切断される炭素から数えて、3番目の炭素で新しい結合ができるという意味です。3が2つあるのは、切断される結合の両端の炭素から数えて、それぞれ3番目で結合が形成するということです。

シグマトロピー転位のナンバリング

他の例を出すと、[2,3]-Wittig転位(アリルエーテル+塩基の反応)では、結合が切断される酸素原子、炭素原子から数えてそれぞれ2,3番目の炭素原子で結合ができるので、[2,3]となります。

2,3-Wittig転位

ちなみに、数字は小さい順で並べているだけであって、原子の電荷や順位則などは関係ありません。

vicinal

vicinal(ビシナル)は隣り合った炭素原子に結合した官能基を示す言葉です。炭素鎖で隣り合った位置につながっている官能基で使われます。

こういう場合は1,2-ジオールとも言いますし、vicinal-ジオールとも言います。

vicinal

geminal

geminal(ジェミナル)は同じ炭素原子に結合している官能基を示すときに使われます。

例えば、「芳香環へのSNAr反応では脱離基のgeminal炭素に求核攻撃が起こる」と言うように使われます。要は1つの炭素上で反応が起こっているということを指します。

geminalがもっとも使われるのは、1H-NMRです。同じ炭素に結合している2つの水素の磁気的環境が違う場合にgeminal水素同士がカップリングしていると言うように使われます。下のような例が、geminal水素のカップリングですね。キラル化合物や環状化合物のCH2(メチレン)で見られます。ジェミナルカップリング

geminal水素のカップリングはJ値の大きなカップリングなので、見つけやすいカップリングです。教科書では10-17Hzと書いてありますが、体感では17Hzくらいのことが多い気がします。

1,ω(オメガ)-

1,ω-は炭素鎖の中で、両端に置換基があるときに使われます。炭素鎖の長さが複数あるときにまとめて示すときに使われる単語です。

例として、論文(J. Org. Chem. 2008, 73, 249)を載せておきます。両端にヨウ素があるとき(Z = I)は1,ω-、片方だけにヨウ素があるとき(Z = H)はω-が使われます。この論文ではメチレン鎖の長さが複数あるので、1,5-や1,6-のように数字を特定できないためにωでまとめられています。

1,ω-の論文

使われる機会はとても少ない接頭辞ですが、知らないと意味がわからなくなるので、この機会に覚えておきましょう。

まとめ

以上、官能基の位置関係を示す接頭辞を4種類紹介しました。有機化学では官能基がどの位置にあるかというのも非常に重要なことなので、今回紹介した単語を覚えておくと発表や論文の理解がしやすくなると思います。

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