要旨・スライドは着地点を最初に決める

年が明けて、もう2月になりました。大学ではもう卒論修論の時期ですね。毎年恒例ですが、学生にとってはハードな日々の真っ最中です^^;

人によっては、発表するデータがないと焦っているところでしょう。がんばってください。

さて、卒論、修論では要旨卒論・修論発表の順で進んでいきます。(要旨発表卒論・修論の順番の大学もあります)つまり、3つの山場があります。特に卒論の場合、文章を書いたり、発表スライドを作ったりというのは、ほぼ初めての経験で何から手を付けていいかわからず、とりあえず先輩のデータをそのまま踏襲することになると思います。

しかし、せっかく研究室に入ったのだから、文章やスライドの作り方を学んでほしいです。今回は、卒論などの文章やスライドの作り方を解説します。

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要旨を書くとき・・・

卒論、修論では、要旨を書くところからスタートします。学会発表でも同じですけど。

締切日の連絡がきたら、それに合わせて学生がパソコンの前に向かって、Wordで書き始めるのですが、ちょっと待ってください。

いきなり書き始めないで!!

特に学部4年生は初めてなので、構成がめちゃくちゃな文章になることがとても多い。そんな要旨を持ってこられても、教員もどこから直していいかわからなくて途方に暮れてしまいます。

はじめにすべきこと

要旨を書く上で一番最初にすべきことは何だと思いますか?

タイトルを決める、バックグラウンドになりそうな論文を調べる、とりあえず思うがままに書いてみる・・・

全部違います!

要旨を書くにあたって、一番最初にすべきことは「着地点」を決めることです。

着地点=研究の最終目標のようなもの

漫才コンビ

着地点」という言葉はお笑い番組で聞いたことがあると思います。

芸人同士がアドリブで話を進めたけど、最終的に滑ってしまったとします。そういったとき、芸人さんは「着地点がわからなかったから滑ったわ〜」と使います。どういうボケ(着地点)にするか事前に決めていないため、前フリがわからなかったということです。

要旨もこれと同じで、お笑いでいうオチに対応する「研究の最終目標」を意識して、そこに向かって書いていくことが必要です。

着地点を見失うと書き出しすら決まらない

お笑いでオチがわからなければ前フリができないように、研究目標が決まっていないと書き出しすら決まりません

実感がわかない人のために、例を出します。

例えば、ある学生の卒業研究が、「アミノ酸のカルボキシ基のエステル化」という内容だったとします。(研究テーマとしてどうなの?というツッコミはなしでお願いします)

要旨を書く学生が「アミノ酸を出発原料として、カルボン酸をエステル化する反応の実験をしている」ということしか認識していなかったとすると、この研究の何が新しいのかがわかりません。可能性として次のような研究の最終目標が考えられます。

考えられる研究の最終目標:

  1. エステル化反応を進行させる新しい縮合剤の開発
  2. アミノ基が共存する分子でエステル化をする
  3. 今までのアミノ酸のエステル化ではラセミ化が起こっていたのをキラル保持でエステル化する

13のどれが最終目標かきちんと理解していないと、バックグラウンドとして書く参考文献や書き出しが変わってきます。

それぞれのバックグラウンド・書き出し:

  1. エステルという官能基の重要性、これまでのエステル化反応に用いられていた縮合剤の紹介とそれらに対する改善点
  2. アミノ基とエステルが共存する分子の重要性、そのような分子のこれまでの合成法(キラル、ラセミ問わず)
  3. アミノ基とエステルが共存する分子の重要性、ラセミ化が起こっていた実例

23の書き出しは同じで、アミノ酸の話から書き出します。一方、1の場合、アミノ基はどうでもいい話です。生体分子ということでアピールしやすい、高極性溶媒が最適といった理由があってアミノ酸を取り上げたにすぎないでしょう。

このように、研究の着地点は要旨の1行目にすら影響を与えます。なので、要旨はいきなり書き始めないで、着地点について教員とよく話してから書き始めるようにしましょう。

卒論・修論の書き方で注意すること

論文を積み重ねた山

要旨を提出したら、次は卒論・修論を書くことになります。こちらは要旨が完成していれば、構成に関しては問題になることはないです。

研究の最終目標から逆算して序論を書き、実際に行った実験を順序立てて(必ずしも時系列どおりではなく)書いていくだけです。構成は要旨とほぼ同じで、要旨に肉付けしていくイメージで大丈夫です。

ただ、構成は大丈夫でも、学生が書いたものを読んでいると多くの訂正が必要になります。

ここでは、私が直してきた書き方の注意点を挙げます。ここに書いてあるものくらいは学生が自分で適切に書いて、教員の負担を減らしてください。

口語と文語を区別する

口語(話し言葉)と文語(書き言葉)を区別してください。卒論・修論は公的な文章ですので、口語ではなく文語で書きます。

例えば、次のような表現は口語なので文語に直してみてください。

「試薬A,Bに触媒CTHF溶液を入れた」

「化合物Dの収率は20%と低かったが、副生成物が70%できた」

「ベンゼン環に置換基がついた化合物Eを得た」

簡単な例ですが、わかりましたか?

「入れた」「加えた」

「できた」「生成した(得られた)」

「ついた」「置換した(結合した)」

が正しい文語です。

研究室内部でのディスカッションでなら、(研究室によっては)口語的な表現もありですが、卒論ではなしです。友達、後輩と話すときと先輩、教員と話すときでは言葉遣いが変わると思いますが、それと同じです。

抽象的な表現を使わない

これも最初のうちはやりがちなミスですが、抽象的な表現を使ってはいけません。具体的には「ある程度」、「かなり」、「とても」、「数十」などです。

「かなりの収率」といっても、人によって想像する収率は変わります。90%を想像する人もいれば60%を想像する人も(少数ながら)います。

科学をやっている以上、読み手によって受け取り方が変わる表現は厳禁です。

ただし、有機化学では「〇〇な収率」と、抽象的な表現を使うこともあります。それは基質や条件検討をしたときです。一つ一つの結果をしゃべるとくどく聞こえるので、いくつかをまとめて「A~Dは高収率、E~Gは中程度の収率」と言うこともあります。

これも人それぞれ受け取る数値に多少の違いはありますが、おおむね下のように受け取ります。少なくとも大小関係は表の順番のとおりです。

言い方目安の数値
非常に高い90~
高い80~90
良好60~80
中程度30~60
低い~30

短文にする

文章を書き慣れないうちは、ついつい長文になってしまいがちです。

長文になると、読むテンポが掴みにくかったり、意味が通じなくなったりします。よくあるのが主語と述語が対応しなくなるという間違いです。

例:当研究室で発見した化合物A反応性、立体選択性に優れた触媒で、従来の触媒Bと異なる立体選択性で生成物を得ます→「化合物Aが生成物を得る」ではなく「化合物Aが生成物を与える」です。

基本的に1文あたり40文字以内を目安にするといいです。Wordだと1行です。いくらかオーバーしても大丈夫ですが、2行以上になったら、どこかで文を切るようにしましょう。

"Entry"は書かない

反応開発や合成の研究をしていると、反応条件の検討をテーブルでかきます。当然、文章中でテーブルについて説明しますが、このとき文章中に"entry"とは書きません

よく「Entry 3の条件で反応を行ったとき・・・」と見ますが、こういった場合、「反応温度を60 ˚Cに昇温したとき・・・(Entry 3)。」と書き換えましょう。発表のときも同じで、Entryという単語は使いません。

リファレンスの書き方

リファレンスの書き方はこちらの記事でまとめました。書き方のフォーマットがあるので、それに従って書きましょう。

スライド作成

スライドを見せながらカフェでミーティング

要旨卒論・修論ときて、最後は発表です。研究室に入る前にパワーポイントを使って発表するチャンスは少ないと思うので、おそらく卒論発表は初めてのパワーポイントでの発表の場となることでしょう。

初めてスライドを作るとなると、右も左も分からないと思うので、そういった学生さんは参考にしてください。

スライド1=1

スライド作成では、スライド1枚で1として枚数を決めます。7分の発表であれば6~8枚、15分の発表であれば14~16枚です。

この枚数を目安にしてスライドを作っていきましょう。

文章は書かない

スライドには文章は書きません。書いたとしても短文(10~20文字)にしましょう。

スライドは1=1分と説明しました。発表の聞き手は、あなたの研究を知らない状態から新しい情報を1分以内に連続して何枚分も把握していきます。そのときに文章が長々書いてあっても読むことはできません。

なので、図やイラストを使ってパッと見でわかるようなスライドづくりを意識してください。

幸い、有機化学は構造式ですべて説明できると言っても過言ではないので、構造式を見ただけでわかるように図を工夫しましょう。

最初は手書きで構成を考える

スライドの流れを手書きで作成

これは注意点というわけではないですが、スライドは手書きで構成を書いて、教員と相談するのをオススメします。

初めからChemDraw、Power Pointを使って作ると時間がかかります。おそらく最初だと直すことが多いので、せっかく作ったスライドが無駄になってしまいます(作成時間も)。

そういったことがないように、最初は手書きで大まかに構成を書いて、教員に「こんな感じのスライドを作ろうと思いますが、どうでしょうか?」と聞いてください。

2~3回やり取りしてGOサインが出たら、ChemDrawで作るようにすると、時間の無駄がなくなります

まとめ

卒論を書いたり発表をしたりと、この時期は大学では山場を迎えつつあります。

文章やスライドを作るのは初めてだったりするので、未熟な部分があるのはしょうがないことですが、それでも引用文献の書き方のような、最低限自分で気をつけてほしいものもあります。

つまらないことで時間をロスしないように、ここで書かれていることに気をつけて卒論・修論に臨んでみてください。

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