溶媒の精製法(炭化水素・アルコール)

有機化学の研究では溶媒を使うことが、ほぼ必須ですね。

反応に使う化合物(反応基質、添加物、触媒など)の純度に気をつけることはもちろん大切ですが、溶媒の純度もとても重要です。というのも、溶媒の方が物質としての量が多いため、わずかな不純物でも量が多くなるからです。

そこで、ここでは、有機化学の研究でよく使われる溶媒の精製方法を紹介します。

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溶媒中の不純物の量は?

はじめに問題です。

反応を1 mol/L(反応基質 1 mmol)で行うとします。溶媒の分子量と密度を80、0.8とすると、溶媒はどのくらいの量でしょうか?

答えは10 mmolです。

濃度1 mmol/Lというと、個人的には反応の濃度としては高い印象ですが、それでも反応基質の10倍量の物質量です。

つまり、溶媒に10%もの不純物が入っていれば、反応基質と同量が混じっていることになります。

10%も不純物は入らないだろうと思うかもしれませんが、水(H2O = 18)のような分子量が小さい物質なら、10%に近い量を含有することもありえます。溶媒の精製ができているかが、反応の成否に関わることもあるので、注意が必要ですね。

炭化水素類

炭化水素類で溶媒として使われるのは、ヘキサン・シクロヘキサン・ベンゼン・トルエンが主です。

溶媒に使われる炭化水素

溶媒沸点(℃)融点(℃)密度(g/mL)分子量
ヘキサン69-950.6586
シクロヘキサン8070.7884
ベンゼン805.50.8878
トルエン110-950.8792

炭化水素類の精製方法は共通していて、以下の3つの手順で精製できます。

  1. 濃硫酸と分液(脱硫)
  2. 水、NaOH水溶液(1-3 mol/L)、水の順に分液し、CaCl2で予備乾燥
  3. 金属ナトリウムをプレスしたナトリウム線を加えて、1-2時間の加熱還流後、常圧蒸留

簡易的な精製で十分な場合は、手順3のナトリウム線を加えて蒸留をするだけでも、水分は除去できます。

アルコール類

アルコール類の精製

メタノール、エタノール、イソプロパノールがアルコールとして、よく使われますね。

溶媒に使われるアルコール

溶媒沸点(℃)融点(℃)密度(g/mL)分子量
メタノール65-970.7932
エタノール78-1140.7946
イソプロパノール82-900.7860

アルコール類の精製では水を除去することが大切です。方法としては、金属マグネシウムでマグネシウムアルコキシドを生成し、その後に蒸留します。

  1. 不活性ガス中、金属マグネシウム5 gを入れたナスフラスコに脱水アルコール(市販or他研究室からもらう)50 mLを加え撹拌し、マグネシウムアルコキシドを生成させる
  2. 反応が終わったマグネシウムアルコキシド液に、アルコール(2 L)を入れ、1-2時間ほど、加熱還流する
  3. Vigreux管をつけて常圧蒸留

当たり前ですが、手順1と2で使うアルコールは同じアルコールを使ってください。手順1でエタノールを使ったのに、手順2でメタノールを使ったら精製になりません。

マグネシウムアルコキシドの生成法

この方法は3種類のどれにも使える精製法ですが、手順1に関して、アルコールごとに違いがあります。

メタノール:金属マグネシウムに滴下すると、室温でも5分以内に反応が進行します。反応熱で、アルコキシド生成が加速して、発熱が止まらなくなるので、事前にナスフラスコを冷却できるように、大きめの容器に氷水を準備しておきましょう。

エタノール:室温ではアルコキシド生成はほとんど進行しません。エタノールを10 mL程度入れたところで、ドライヤーで加熱し、アルコキシドを生成させます。アルコキシドが生成すれば、水素が発生するので、発泡で確認しましょう。また、ドライヤーの加熱を止めても、反応熱でフラスコが温かくなっていることでも確認できます。

イソプロパノール:かなり反応しにくいので、イソプロパノールを20 mL程度入れたら、オイルバスで加熱します。40℃くらいから始めて、様子を見ながら、徐々に温度を上げていきます。個人的な経験では、約55℃でアルコキシドが生成しました。(金属マグネシウムの状態やオイルバスの精度で温度は結構変わるので、あくまで目安としてください)

 

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