- キラルHPLCでキラル体とラセミ体の保持時間のズレをなくす方法を紹介
- 同じ化合物で保持時間がズレる原因を解説
キラルHPLCに関して学生から聞かれたことがある質問に対して解決法をまとめました。
不斉反応、光学分割などを行っている方はぜひご一読ください。
Contents
HPLCのretention timeのズレ
論文のSupporting Information用にキラルHPLCのデータを集めています。
ラセミ体と反応後のキラル化合物のretention time(保持時間)がズレていますが、いいですか?
この質問は今までに何回も聞かれたことがあります(笑)
ラセミ体とキラル体で保持時間が違うことはよくありますよね。理論上は同じはずですが、現実的にはズレてきます。例えば、キラル体は12分と15分にピークが出るのに、ラセミ体は14分と17分といったことも多々あります。
上の質問に対する答えとしては「ズレの程度による」としか言えないです。
「○%以内ならOK」とはっきりした基準もないですし、それを勝手に決めて、数字だけが一人歩きして伝わっても困る…
そのため、はっきりした答えができません。
ズレの解決策
「ズレの程度による」では何も解決しないので、この問題の解決策を書きます。
「論文に使えそうな高いee(またはer)が出たら、直後にラセミ体も測定しておく」
多少面倒でもこれをやっておけば、ズレることはありません。
ズレの原因
そもそも、保持時間のズレが起こる原因として考えられるのは以下の項目です。
- 展開溶媒比のズレ
- キラルカラムの劣化
- 配管接続部の緩みや機械の調子による圧力の変化
中でも展開溶媒比のズレが最たる原因でしょう。
HPLCではほとんどの場合、2種類以上の溶媒を混合して展開溶媒としています。主に使われているのはヘキサンとIPA(イソプロパノール)です。私が所属していた研究室でも1:1〜1000:1まで様々な比率の展開溶媒が使われていました。
この比率を寸分の狂いもなく、同じ比率で混合することは不可能で、展開溶媒が変われば保持時間も変わってきます。
また、HPLCの測定が数ヶ月以上経ってからだとカラムや機械の劣化によって保持時間がズレてきます。
古い機械だと日によって調子の良し悪しがあることも。私がいた研究室ではそうでした(泣)
このようにズレが起こる原因は多々あるので、時間をあけずにキラル体とラセミ体を測定することが重要です。
1点だけ、注意することがあります。
「論文に使えそうな高いee(またはer)が出たら、直後にラセミ体も測定しておく」
と書きましたが、展開溶媒は同じ瓶のものを使う必要があります。
キラル体の測定が終わった後、展開溶媒の残りが少なくてラセミ体を新たに混合した展開溶媒で測定したのでは、この解決策の意味はありません。
まとめ
キラルHPLCでキラル体とラセミ体の保持時間のズレを無くす方法を解説しました。
根本的な解決方法ではないですが、この方法であれば論文のデータをまとめているときに、再測定する必要はなくなります。