料理の「さしすせそ」:調味料を入れる順番の科学的理由

みなさんは料理をしたことはありますか?

おそらくこのブログを読んでいただいている方の大半は長時間研究室にこもるような生活をしていると思います。なので、料理はほとんどしないかもしれませんが、料理にはたくさんの化学が使われていることを皆さん、ご存知ですか?

今までの記事とは趣向を変えた日常生活に使われている化学を解き明かしていくことにしました。その中で、今回は料理で、調味料を入れる順番を科学的に解説してみました。

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料理の「さしすせそ」

料理の「さしすせそ」という言葉は聞いたことがあると思います。それぞれ砂糖、塩、酢、醤油、味噌のことで、調味料をこの順番で入れるとおいしくなるというものです。

「すせそ」は加熱で風味がとんでしまうため、後半にいれるのですが、どうして「さし」は最初に、この順番(砂糖塩)で入れるのでしょうか?

調味料で味がつくとは?

そもそも調味料で味がつくとは、化学的にはどういうことでしょうか?

ここで言う「味がつく」とは、サラダにドレッシングをかけるような調味料が素材に乗っている状態ではなく、ぶり大根の大根のように素材に味が染み込んでいる状態を言います。

素材に味が染み込むメカニズムは、化学的には次のように考えられています。野菜も肉も細胞が集まってできたもので、野菜の場合、さらに細胞壁が表面にあります。この表面や細胞の間には小さい凹凸や穴があって、そこに溜まっている水に調味料が溶け込むことで、「味がつく」と呼ばれる状態になるのです。

小さい凹凸や穴にある水に溶け込むことは化学の用語で言うと「拡散」にあたります。つまり素材に味が染み込むには拡散が重要な過程ということになります。

ワイングラスの水にワインが拡散していく様子

砂糖と塩の違い

本題の砂糖と塩の違いについて見ていきましょう。

先程書いたように拡散によって、素材に味が染み込むことになります。ですので、砂糖と塩の拡散速度が入れる順番に直結します。

拡散速度は拡散係数濃度勾配(モル濃度の勾配)に比例します(フィックの法則)。25 ˚Cの水中での拡散係数は塩が1.09 x 10-5、砂糖が0.29 x 10-5であり、塩の拡散係数の方が大きいです(拡散係数の参考文献:https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj/67/4/67_241/_pdf)。

次に濃度勾配について見てみます。素材中の水には、砂糖、塩がほとんど溶け込んでいない状態なので、濃度は0です。一方、素材の周りの水(スープなど)には砂糖、塩が溶けています。これらの濃度の勾配が拡散速度に影響します。

ここで注目すべきは分子量です。砂糖の主成分のスクロースは342、塩(塩化ナトリウム)は58.5です。砂糖の方が約6倍大きい分子量を持っているので、同量入れた場合、砂糖の方が濃度勾配が小さくなります。

つまり、砂糖の方が味が染み込むまで時間がかかるので、先に入れるということです。

砂糖は拡散速度が小さい

拡散係数と濃度勾配の点から拡散速度が砂糖の方が小さいので、料理では塩よりも砂糖を先に入れるのです。

料理をする人には、砂糖塩の順に入れるのは当たり前のことですが、理由まで知っている人は少ないのではないでしょうか。(少なくとも私の周りの人は知りませんでした)

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