インドールの直接的かつエナンチオ選択的なC2位アリル化反応

どんな論文?

・インドールのC2位に、直接的かつエナンチオ選択的にアリル基を導入する分子間反応を開発
・アリルアルコールを原料とし、芳香族、脂肪族どちらの置換基を持っていても反応する
・DFT計算や対照実験で、反応メカニズムを検討し、インドールの3位にアリル基が導入されたあとに転位するのではなく、直接2位に導入されていると思われる

Iridium-Catalyzed Enantioselective Intermolecular Indole C2-Allylation
James A. Rossi-Ashton, Aimee K. Clarke, James R. Donald, Chao Zhen, Richard J. K. Taylor, William P. Unsworth, and Shu-Li You*
(University of York)

Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 7598-7604.

Contents

インドールの直接的な不斉C2-アリル化の初めての例

インドールのC3位、N1位の直接的な不斉アリル化はこれまでもよく研究されていました。

しかし、C2位の直接的な分子間不斉アリル化の例はほぼないです。

C2アリル化の(不斉でない)分子間反応は、これまではC2位のハロゲンとのハロゲン-リチウム交換反応であったり、N上の配向基(Directing group)を利用したC-H活性化が主流でした。

インドール2位の一般的なアリル化の反応

これらの方法は位置選択性が高い一方で、官能基の導入や除去といった工程数の増加がデメリットでした。さらに、導入されたアリル基は枝分かれのない、直線的な構造であり、かつラセミ体しか合成できませんでした。

分子内反応であれば、キラルなアリルインドールを合成する方法も知られています。ただし、ほとんどが環状構造(annulated)を有するものばかりで、例外はTamberの一例のみでした。

Tamberの報告例

環状構造を有する2-アリルインドール

今回、C3位に置換基をもつインドールのC2位の分子間不斉アリル化反応を開発しました。

インドール2位の直接的エナンチオ選択的アリル化

ルイス酸の選択がキモ

適切なルイス酸を選ぶことが重要で、今回の反応では、次の3つの条件を満たす必要があります。

適切なルイス酸の条件

1.アリルアルコールを活性化して、Ir-πアリル錯体を形成させる
2.N1-アリル化を抑えて、C2(もしくはC3)でのアリル化を優先させる
3.C3位からC2位への位置選択的な転位を促進する(←最終的には必要のないことではありましたが、研究初期での考えのため、一応書いてます)

ルイス酸を含む反応条件の検討

上記の条件を満たすルイス酸について調べてみると、Mg(ClO4)2が適切であることを発見しました。(このルイス酸はIr触媒と組み合わせて使われた例はないそう)1a2aの反応ではC2位がアリル化された生成物3aは99%収率、98%eeで得られました。

2-アリルインドール合成の条件検討

(S)-Carreira ligandの構造

インドール2のC3位の置換基のかさ高さも反応に悪影響がありましたが、2の当量を増やすことで解決しました。

さらに他の条件を検討し、最適条件を決めました。

さらにアリルアルコール1、インドール2それぞれの構造を変えて検討しました。反応条件の多少の調節はありますが、概ね、高収率、高eeで目的のC2位がアリル化されたインドールが得られています。

ただ、C3位にカルボニル基をもつインドールでは反応が進行しなかったそう。カルボニル基の電子求引性がインドールの求核性を落としているからと、Shu-Li Youらは考えています。

また、C3位に置換基がないインドールでは、C3位にアリル基が導入された生成物しか得られなかったとのこと。やはり、C3位の求核性が高いため、C3位にはブロックのための置換基が必要でした。

メカニズム(C3→C2位への転位orC2位へ直接導入)

対照実験

メカニズムを明らかにするための対照実験が行われました。

触媒、配位子、ルイス酸を添加しない条件では、ほぼ反応が進行しません。また、Mg(ClO4)2のカチオン、またはアニオンだけを変えても、位置選択性(C2とN1)やエナンチオ選択性が低下したので、Mg(ClO4)2が最適なルイス酸と言えます。

続いて、メカニズムの検討に移りました。すなわち、①C2位に直接的にアリル基が導入される、②求核性の高いC3位で反応したあとにアリル基がC2位に転位する、のどちらであるかを調べました。

そのために以下のようなインドール5aとアリルアルコール1eでの反応を行いました。

対照実験

どうしてこれらの化合物を反応に使ったかというと、C3位→C2位への転位だとした場合、中間体6を経由し、より電子密度の高いアリル基(5aの置換基)が転位した7aが生成すると考えられるからです。

しかし、実験結果は7bだけが生成し、7aは0%でした。

他にも、重水素化されたアリルアルコールや電子密度の近いアリル基でも同様の実験をしましたが、同じ結果となりました。

これらの実験結果からは、C2位に直接的にアリル基が導入されていると言えます。

DFT計算

DFT計算からもどちらのメカニズムで反応が進行しているか考察しています。

結論としては、DFT計算でもC2位へ直接アリル基が導入される方が、C3→C2位への転位より2.6 kcal/molだけエネルギーが低く、有利であるとなりました。

どうしてC2位での求核攻撃が優先する?

一般的にインドールはC3位の電子密度が高く、C2位の電子密度が低いので、C3位での求核攻撃がC2位より優先します。

今回の反応で、C2位での求核反応が起こった原因は2つあります。

①C3位で求核攻撃が起こるとすると、C3位の置換基が立体的に障害となる
②電子豊富なインドールと電子不足なπ-アリル種のベンゼン環でπ-π相互作用があり、遷移状態が安定化される

この2つの原因により、C2位への直接的なアリル化の方がエネルギー的に有利になったとのことです。

スポンサーリンク