どんな論文?
・1,5-ジエンを原料とすると立体選択的にトリシクロオクタンができる
・この反応を天然物の1段階合成に応用し、waitziacuminoneができた
Acetylene as a Dicarbene Equivalent for Gold(I) Catalysis: Total Synthesis of Waitziacuminone in One Step
Dagmar Scharnagel, Imma Escofet, Helena Armengol-Relats, M. Elena de Orbe, J. Nepomuk Korber, and Antonio M. Echavarren*
(Institute of Chemical Research of Catalonia)Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 4888-4891.
Contents
アセチレンガスの反応利用が新しい
今まで末端アルキン+アルケン 1 から中間体 2 を経由して、シクロブテン 3 、1,3-ジエン 4 を合成する反応が報告されていました。
Scheme 1
今回、末端アルキンをアセチレンガス(いうなれば両末端アルキン)に変えて反応を開発しました。その結果、今までとは違う骨格の生成物のビスシクロプロパン 5、トリシクロオクタン 6 の合成に成功しました。
Scheme 2
アセチレンを原料に用いることがキモ
<先行研究>
金触媒を用いる反応は分子内反応が多く、分子間反応の研究は少なかったです。
Echavarrenらは金触媒を用いた分子間反応に着目した研究を行っていました。これまでに↑のような末端アルキンとアルケンから、金触媒でシクロブテン3 や1,3-ジエン 4 を合成する反応を報告していました。(Scheme 1)
<原料としてのアセチレンガス>
アセチレンガスを使った金触媒の反応はほとんど報告されていませんでした。特に、シクロブテン3 や1,3-ジエン 4 の合成には末端アルキンが使われていて、アセチレンガスは使われたことがありません。
ここで、Echavarrenらは、Scheme 1の中間体 2 のR1 = Hとなったものが、今までの報告で、反応中間体として示されていることに着目しました。
そこで、Scheme 2のようにアセチレンガスとアルケンの分子間反応で、新たな生成物を得られると考え、研究に着手しました。
触媒検討とDFT計算
<(Z,Z)-1,4-二置換-1,3ブタジエンの合成>
はじめに、配位子検討をしました。アルケン 1a とアセチレンガスを金触媒存在下、配位子の種類を変えて、生成物を検討しました。この反応では、リン配位子 D を使うと(Z,Z)-1,4-二置換-1,3ブタジエン、NHCリガンド F を使うとビスシクロプロパンが主生成物になりました。
(Z,Z)-1,4-二置換-1,3ブタジエンの基質適用範囲も調べていますが、全体的に収率が低めです。アセチレン分子が複数挿入した多量体ができているためとのこと。
<ビスシクロプロパンの合成>
続いて、ビスシクロプロパン化の検討です。
特徴の一つとして、この反応ではメソ体が中程度の選択性でできます。
また、スチルベンのようなアリール置換アルケンだけでなく、シクロオクテンのようなアルキル置換アルケンでも反応します。
メソ選択性の理由は、DFT計算から、メソ体生成時の遷移状態の方がアンチ体に比べて安定であるためとわかりました。金カルベン中間体 Int2a からメソ体が生成するときのエネルギーの方が、アンチ体が生成するときのエネルギーより2.7kcal/molだけ低いので、メソ体の比率が増えるそうです。(詳しい図は本文を参照してください)
エネルギーの差は、中間体の立体反発が原因なのかな?スチルベンのアリール基が、アンチ体生成の遷移状態だと1つ目のシクロプロパン上のアリール基と近くなる…ように図では見える気がします…著者も明言はしていないので、なんとも言えませんが…
Waitziacuminoneの全合成
この反応の発展として1,5-ジエンとアセチレンガスを反応させ、トリシクロオクタン 6 を作りました。
さらにゲラニルアセトンとアセチレンガスを反応させて、waitziacuminone (±)-9 を1段階で合成できることを示しました。 ここでも 9 の相対立体配置が選択的にできることをDFT計算で説明しています。
議論のポイント
・メソ選択性の理由
・配位子の違いによるジエンとビスシクロプロパンの選択性の違い
・スチルベンの置換基の違いによるアルケンの電子密度の反応への影響
・シクロオクテン以外のアルキル置換アルケンでの反応