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酵素、酢酸ビニルによるアセチル化
Abstract
    • 酵素(Enzyme)によるアセチル化反応で酢酸ビニルを使う理由がわかります

ヒドロキシル基のアセチル化反応は、有機化学でよく使う反応です。

この反応にはさまざまな反応剤・反応様式がありますが、その中の1つに酵素を使う反応があります。

酵素を使ってアセチル基を導入する反応を行うとき、アセチル化剤に酢酸ビニルがよく使われていますが、どうして酢酸ビニルが使われているのでしょうか?

学生
どうして酢酸ビニルなんて使っているんだろう?研究室にそれしかなかったのかな?でも酢酸エチルなら、どこの研究室にもあるのにな・・・酢酸エチルではだめなのかな・・・

↑以前にいた研究室で、実際に学生が言っていた内容です。

酢酸ビニルであることが重要

結論から言うと、酵素によるアセチル化反応では酢酸ビニルを使う必要があります。

その理由は、酵素によるアセチル化反応は逆反応も進行するため、逆反応を抑制する必要があるからです。

以下、詳しく説明していきます。

酵素によるエステル交換反応

上では「酵素によるアセチル化反応」と書いていましたが、もっと正確な言葉を使うと「酵素によるエステル交換反応」です。

酵素によるエステル交換反応

このようにエステルとアルコールを酵素を触媒として反応させて、エステルのアルコール部を交換します。

反応式の矢印でも示したように、この反応は逆反応も進行します。

なので、一般的には、この反応は熱力学的に安定な平衡状態で落ち着きます。多くの場合、原系と生成系のエステル・アルコールの安定性に大きな差はないので、1:1に近い割合で平衡状態となります。

逆反応を抑制する方法

エステル交換反応は平衡状態になると原系と生成系が1:1の割合になってしまいます。

これは生成系を得たい場合には大きな問題です。このままでは理論上、50%収率が最高になってしまうからです。収率は100%に近いほうがいいのは言うまでもありません。

そのためにはルシャトリエの原理に従って、平衡を生成系に動かす必要があります。

平衡を動かす方法はいくつかありますが、一番かんたんな方法として生成物(の一部)を系外に除去する方法があります。酢酸ビニルは、この方法を利用しています。

具体的に見ていきましょう。

酢酸ビニルを使ったエステル交換反応

酢酸ビニルを使ったエステル交換反応では、副生成物のアルコールはビニルアルコールです。

高校の化学で勉強する内容ですが、ビニルアルコールは不安定なため、互変異性体のアセトアルデヒドになります。

すなわち、生成物の一部(ビニルアルコール)が反応系外に除去されることになり、平衡が生成系側に動くようになるのです。これによって、理論上、100%収率まで向上します。

他に方法はないの?

ここまでで、エステル交換反応に酢酸ビニルを使うことはわかったと思います。

他に平衡を生成系に動かす方法はないのでしょうか?

ルシャトリエの原理に従えば、原系の濃度を上げることでも生成系に平衡が移動します。今回のケースでいうと、酢酸エチルを大量に使っても、平衡はアセチル化された生成物側に移動するはずです。しかし、論文では酢酸ビニルを使っている反応ばかりです。

酢酸エチルを使わない理由として、次の2つが考えられます。

①反応基質を大量に使うのは、論文の見た目上、好ましくないから
②有機物の量が増えると変性してしまう酵素もあると思われるから

①については言わずもがな。最近では化学にもエコが求められるようになっているので、安価であろうと、無駄になる化合物を反応に使うのは好まれません。教授も、学会や論文でその手のツッコミがあるのではないかと及び腰になっていたり、学会のたびに同じ質問が続いて面倒臭がっています。

②は科学的な理由ですが、酵素は水中での反応を触媒するように設計されていて、水中(高極性溶媒中)で適切な立体構造をとるタンパク質です。そのため有機物が増えると酵素が変性し(酵素の構造がおかしくなり)、反応を触媒できなくなることがあります。

溶媒にDMSOなどの高極性な有機溶媒を水と混合して使うことが多いですが、そこに極性の高くない酢酸エチルが増えるとタンパク質の変性が起きかねません。

こういった理由があるため、酵素によるエステル交換反応では、酢酸ビニルがアセチル化剤として使われます。

まとめ

酢酸ビニルが、酵素によるエステル交換反応に使われる理由を解説しました。

言われてみれば、そんな理由・・・と思う内容です。ただ、学生に聞いてみても、知らない人が多かったので、記事に取り上げてみました。

有機化学のちょっとした内容でもいいので、何か疑問があれば、コメントにお寄せください。

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