
有機化学の世界には、〇〇エコノミーという言葉がいくつかあります。〇〇を節約するという意味で、アトムエコノミー、レドックスエコノミー、ポットエコノミーが代表的です。
レドックスエコノミーはPhil S. Baran教授の提唱で、全合成で酸化還元の段階を減らしてスマートな全合成を達成しようというものです。(Baran教授の全合成はどれもとてもスマートで、天才であることがよくわかります)
ポットエコノミーは林雄二郎教授が提唱されたものです。同じ反応容器で連続的に反応を行えるようにして、後処理、精製の手間を減らそうというものです。また、アトムエコノミーはBarry Trost教授が提唱したもので、原子を無駄にしない(副生成物を減らす)という考え方です。
さて、ここで私も一つ提唱したいことがあります。タイトルにも書きましたが、ガラスエコノミーです。
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ガラスエコノミー=ガラス器具をプラスチックに置き換える
最初に結論から書きます。ガラスエコノミーとは、ガラス器具をポリプロピレン(PP)などのプラスチック類に置き換えていこうということです。
これだけではわかりにくいと思うので、理由を説明していきます。
有機化学の実験はガラス器具が使われています。ほとんどの薬品に対しガラスが耐えられる、加工しやすい、透明で中の様子が見やすい、原料が安いといった理由から広く使われています。
しかし、ガラス器具の最大の欠点は破損です。落としたり、ぶつけたりしたときの衝撃に弱く、割れてしまいます。
私の研究室でも、よくパリーンと音がする方を見るとデストロイヤー呼ばれている学生がガラス器具を壊しています(^_^😉
大学の研究室では研究費も限られているので、ガラスの破損は経済的に痛手です。特にスリがついている器具だとダメージは大きいです。
そのため、破損したら使えなくなってしまうガラス器具ではなくポリプロピレンに実験器具を置き換えていこうというのが、ガラスエコノミーです。
ポリプロピレン器具のメリット・デメリット
ポリプロピレン器具のメリット
ポリプロピレン器具には次のようなメリットがあります。
- 破損しにくい
- 安い
- 薬品への耐性が高い
- 加工しやすい
下の2つはガラスと同じです。耐薬品性はガラスに比べて、若干落ちますが、実用面では全く問題ないレベルです。
一方で、ガラスにはないメリットが破損しにくいことと、安いことです。
ポリプロピレンは落としてもぶつけても割れないです。無理やり曲げても、曲げた跡がつくくらいで問題なく使えます。基本的に破損しないので、一度購入すれば数年間は使えます(経年劣化はあります)。
もう一つの特徴が安いことです。ガラスに比べて50~80%くらいの価格で買えます。値段も安く、破損もしないので、一度数を揃えてしまえば、5年以上買う必要がありません。
ポリプロピレン器具のデメリット
もちろんデメリットもあります。
- 接続部の密閉性
- 減圧に弱い
ポリプロピレン器具の最大のデメリットは減圧できないことです。有機化学の実験では、気体の置換や化合物の乾燥で減圧することが多いのに、そういった減圧操作にポリプロピレン器具は不向きです。
そもそもポリプロピレンは強度的に強い素材ではないですからね。人間の手の力で簡単に曲げたり凹ませたりできるような強度なので、内部を減圧すると大気圧には耐えられません。ただ、減圧できるように壁を厚くした器具もあり、そういったものであれば、ダイアフラムポンプの減圧度であれば使えます。
あと、器具同士の接続部を密閉することもできません。加工次第ではできなくはないですが、現在売られているもので、そういったものはありません。
こういったデメリットがあるので、現実的にガラスから置き換えられる器具はそこまで多くはありません。
私の研究室ではピペット、メスシリンダー、ロートを置き換えています。ピペットやロートの先端はよく破損する部分で、これらは安い器具ではありますが、毎回新品と交換しているとバカにならない金額になってしまいます。
ゆくゆくはマイヤーもポリプロピレンに置き換えていきたいです。(昔に買ったガラスのマイヤーが余りすぎていて、まだまだ先は長そう)
テフロン器具も高価だけどアリ!
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)といったフッ素系樹脂を使ったフラスコもあります。
フッ素系の樹脂は耐薬品性が高く、強度も比較的強いのが特徴です。私は使ったことはありませんが、フッ素径樹脂の2,3,4径ナスフラスコも売られています。
真空ポンプの減圧も耐えられるのかわかりませんが、使えるのであれば便利ですね。(わかる方がいらっしゃたらコメントなどで教えてください)
値段はガラス器具の5倍くらいです。ガラスのナスフラスコが5回割れるのとテフロン製のナスフラスコが1回破損するのではどちらが早いのか・・・。