有機化学の研究では反応を仕込んだあとは、ほぼ必ず精製をします。最近は大学でも機械化が進みつつありますが、まだまだ人力でやることも多いです。
人力の精製法の代表的な例がシリカゲルカラムクロマトグラフィーでしょう。有機化学の研究室に配属されたのに、やったことがない人はいないはずです。
今回はカラムクロマトグラフィーのチャージ法について紹介します。
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カラムクロマトグラフィーのチャージ方法
大学の研究室ではまだまだメジャーな精製法がカラムクロマトグラフィー(以下、カラム)。
シリカゲルを詰めて、上から混合物の溶液を流して、極性の違いで分離する手法で、研究室ごとに様々な流儀があるため、研究室を移動したときに戸惑うことが多いです。
様々な流儀があるとは言え、どんな流儀であっても、カラムで一番大切なことが、シリカゲル上部に化合物を乗せるチャージです。これが成功するか失敗するかで、カラムの成否が決まると言っても過言ではありません。
ウェットチャージ
私が聞いた中では、この方法でチャージしている研究室が多いと思います。
混合物を溶媒に溶かして、溶液状態でシリカゲルに垂らしていくチャージ法です。溶媒を垂らすスピードが速すぎるとシリカゲルの上の面が乱れて、分離がうまくいかなくなることもあります。そのため、ある程度の慣れが必要な技術です。
もう一つ注意すべきは溶媒の極性です。
一般的なカラムクロマトグラフィーは順相(*)のため、溶媒(流動層)の極性を低→高へと変化させていきます。つまり、チャージするときの溶媒は低極性でないと、分離する前にカラムから溶出してしまいます。
(*順相:固定相が高極性、移動相が低極性)
ヘキサン、トルエンのような低極性溶媒に溶けて、かつそれらでは溶出しない化合物が理想的です。
しかし、そのような化合物であることは稀なので、実際は、少量のジクロロメタンや酢酸エチルに溶かして、析出しないようにヘキサンで極性を低くするのが、よくとられる方法です。ただ、この方法だと溶媒が多くなりやすいという欠点があります。
そこで、ウェットチャージが難しい場合にとられる対処法がドライチャージです。
ドライチャージ
ウェットチャージが溶液状態のチャージであるのに対し、ドライチャージは固体状態でチャージすることです。
ただ、「固体状態でチャージ」と言っても、固体の化合物をそのままチャージするわけではありません。
やり方は以下の通りです。
①ジクロロメタンやエーテルといった揮発性が高く、混合物を溶かす溶媒を最少量使って、混合物を溶かしておく。(ナスフラスコで)
②新品のシリカゲルを、溶液が隠れるくらい入れる。
③エバポレーターで乾燥させる(突沸に注意)。
④さらさらの状態になったシリカゲルを、積んであるシリカゲルの上部に乗せ、最初の展開溶媒で洗い込みをする。
⑤以降は普段通りに。
③の写真が少しわかりにくいかもしれないですが、シリカゲル全体が同じ色になり、サラサラしています。一方、②のときはシリカゲルの色にばらつきがあり、固まっているため、少し振っても動かないです。
方法は簡単ですが、化合物とシリカゲルが高濃度で混ざりあうため、酸に不安定な化合物では分解が起こることがあります。また、アミンのような吸着されやすい化合物だと、溶媒をいくら流しても回収できずに収率が大幅に下る可能性もあります。
メリット・デメリット
ウェットチャージ
利点:手早くできる、化合物によっては苦労せずチャージできる
欠点:化合物によってはキレイにチャージするのが難しい
ドライチャージ
利点:チャージで失敗することはない
欠点:収率が下がる可能性が比較的高い、面倒
ウェットチャージ、ドライチャージ、それぞれ一長一短ありますね。状況に応じて、適切な方を選べるように経験を積んでください。
個人的には固体のカルボン酸はドライチャージが適していると思います。カルボン酸は溶けにくいことが多く、また酸(シリカゲル)に対して安定です。もっとも、カルボン酸は逆抽出や再結晶でピュアにしやすいので、わざわざカラムをすることが少ないですが。
まとめ
知っている人にとっては当たり前のことですが、管理人の所見では、意外とドライチャージの方法は広まっていないです。
ドライチャージの方法を知っているだけでカラムクロマトグラフィーが非常に簡単になるので、ぜひ多くの人に広まればと思います。
(そもそも自動カラム装置が広まればいいんですけどね・・・)